目次
結論から言うと
この本は、「正しさ」や単純な理屈だけでは割り切れない、どうしようもない現実の中でもがく人々の物語です。 これを読めば、あなたが抱える言葉にならない孤独や生きづらさは「あなただけじゃない」と肯定され、明日を生きるためのお守りのような視点が手に入ります。
1 この本を読むと得られること
- 「わかる!」という強烈な共感 日常で感じる些細なイライラ、SNSを見てザワザワする心、誰にも言えない秘密──。登場人物たちの生々しい感情に、「これ、私のことだ」と何度も頷いてしまうはず。自分の気持ちを代弁してくれるような感覚は、最高のデトックスになります。
- 「普通」の呪いからの解放 「幸せなはずなのに、なぜか満たされない」「ちゃんとしなきゃと思うほど、息苦しい」。そんな「普通」や「こうあるべき」というプレッシャーから、ふっと解放されます。完璧じゃなくても、矛盾を抱えていても、生きてていいんだと思わせてくれます。
- 白黒つけられない感情の肯定 世の中は「AだからB」という単純な方程式ではできていません。この本は、幸せ/不幸、正しい/間違いでは割り切れないグレーな感情を、そのまま描いてくれます。複雑な気持ちを抱えたままでもいいんだと、心が少し軽くなります。
- 現代社会を生き抜くための解毒剤 ネットニュースのコメント欄、キラキラしたSNSの投稿、正論を振りかざす人々。知らず知らずのうちに溜まった「毒」を、この物語が洗い流してくれます。少しだけ世界を見る目が変わり、他人の言動に振り回されにくくなるかもしれません。
2 こんな人におすすめ
- SNSやネットニュースを見て、なんだか心がザワザワしてしまう人
- 「自分だけがこんなに生きづらいのかな?」と孤独を感じている人
- 周りからは「ちゃんとしてる」「幸せそう」に見られるけど、実は心に闇を抱えている人
- 仕事や人間関係で、建前と本音の板挟みに疲れてしまった人
- 「こうあるべき」という世間の正しさに、うんざりしている人
3 もう少し詳しく解説
『桐島、部活やめるってよ』で鮮烈なデビューを飾り、史上初の平成生まれの直木賞作家となった朝井リョウさん。彼の作品は、現代を生きる人々の心の機微を、まるで解剖するように鋭く描き出すことで知られています。
この『どうしても生きてる』は、6つの物語がゆるやかに繋がる連作短編集です。登場するのは、ごく普通の会社員、主婦、派遣社員など、どこにでもいそうな人々。だからこそ、彼らの抱える痛みや孤独が、自分のことのようにリアルに迫ってきます。
この本のキーワードは**「健やかな論理」**です。 例えば、「自殺するような人は、事前に再配達なんて頼まない」「恵まれた生活をしている人が、ネットで他人を攻撃するわけがない」といった、世の中にあふれる単純な「AだからB」という考え方。一見正しく聞こえるこの「健やかな論理」が、いかに私たちを追い詰め、現実から目を逸らさせているのかを、本書は突きつけてきます。
- 離婚した女性に「新しい彼氏ができたならもう大丈夫」と安心する母親
- 夢を諦めた自分を正当化するために、夢を追い続ける人をどこか見下してしまう元漫画家
- つらい現実から逃れるため、くだらない男性ユーチューバーの動画に救いを求める派遣社員
登場人物たちは、誰もが「普通」の仮面の下に、矛盾した、どうしようもない感情を抱えています。幸せなはずなのに死にたくなったり、誰かを大切に思う一方で、すべてが壊れてしまえばいいと願ったり。
この本は、「こうすれば楽になる」という安易な解決策は提示してくれません。解説の万城目学さんも「これは『実』だ。どうしようもなく、『実』の物語だ」と語るように、ご都合主義な展開は一切なく、どうにもならない日常がただ続いていくだけです。
でも、だからこそ、この本は私たちの心に深く刺さるのです。自分の醜さや弱さを突きつけられて苦しくなるかもしれません。それでも読み終えたとき、どうしようもない毎日を不格好にでも「どうしても生きてる」しかない自分を、少しだけ愛おしく思えるはずです。