目次
結論から言うと
日本の貧困問題の本質は、モノやお金がない「絶対的な貧困」ではなく、人との繋がりを失い、社会から孤立してしまう「精神的な貧困」だということです。 この本を読めば、「途上国に比べれば日本はまだマシ」という思い込みが覆され、日本の社会が抱える“見えにくい”問題の根っこが理解できるようになります。
1 この本を読むと得られること
- 「貧困」のイメージが180度変わる スラムや飢餓といった途上国のイメージとは全く違う、日本の貧困のリアルな姿を知ることができます。「貧困=孤立」という、もっと身近で根深い問題だと気づかされるでしょう。
- 日本の社会問題の根本原因がわかる 孤独死、児童虐待、非正規雇用の問題などが、なぜ日本の特殊な社会構造から生まれるのか、その仕組みがスッキリ理解できます。点と点だった知識が、線でつながる感覚です。
- ニュースの裏側が見えるようになる 「生活保護」や「ホームレス問題」のニュースに触れたとき、単なる数字や出来事としてではなく、当事者がどんな困難や葛藤を抱えているのか、より深く想像できるようになります。
- 自分や周りの人を大切にするきっかけになる 物理的な豊かさだけが幸せではないこと、人との繋がりがいかに大切かを再認識できます。日本の社会が失ってしまったものは何か、考えるきっかけを与えてくれます。
2 こんな人におすすめ
- 「日本は豊かな国なのに、なんで貧困問題があるの?」と漠然とした疑問を持っている人
- ニュースで「貧困」という言葉を聞いても、いまいちピンとこない人
- 貧困問題に対して「自己責任でしょ?」という意見を聞くと、少しモヤっとする人
- これからの日本社会がどうなっていくのか、少し不安に感じている人
3 もう少し詳しく解説
この本の著者は、作家の石井光太さん。20年以上にわたり、世界中のスラムから日本の貧困現場まで、徹底した取材を続けてきたルポルタージュの専門家です。だからこそ、本書に書かれているエピソードの一つひとつが、強烈なリアリティと説得力を持っています。
本の特徴や独自性
この本の最大の特徴は、「途上国」と「日本」の貧困を徹底的に比較している点です。「住居」「教育」「労働」「犯罪」など8つのテーマで両者を比べることで、日本の貧困がいかに特殊で、歪んだ構造を持っているかが浮き彫りになります。
本書を理解するキーワードは2つあります。
- 絶対的貧困:食べ物や住む場所がなく、文字通り命の危険がある貧しさ。(主に途上国)
- 相対的貧困:その国の平均的な生活レベルと比べて、著しく貧しい状態。社会的な活動に参加できず、孤立してしまう貧しさ。(日本はこちら。6人に1人が該当)
日本は、様々な所得の人がごちゃ混ぜに住む「混在型都市」です。だからこそ、貧しい人は周りの裕福な人と自分を比べてしまい、強い劣等感を抱きがち。結果、人との関わりを避け、さらに孤立を深めてしまうのです。途上国のように、貧しい人同士でコミュニティを作って助け合う、ということが起きにくい構造になっています。
より深い内容の解説
本書を読むと、日本の便利な社会システムが、皮肉にも人々を孤独に追い込んでいる現実が見えてきます。
例えば、途上国の路上生活者は家族やコミュニティで支え合いますが、日本のホームレスは社会から「五重の排除(教育、企業、家族、公的福祉、自分自身)」を受け、一人ぼっちで這い上がれなくなります。
労働においても、途上国の仕事は危険でも一発逆転の「希望」がありますが、日本の非正規雇用は生活はできても、そこから抜け出す「希望」が見えにくい構造になっています。
さらに衝撃的なのは、刑務所の話。途上国の刑務所は劣悪な環境ですが、日本では「刑務所の方が人間らしい生活ができる」と、わざと罪を犯して戻ってくる高齢者や障がい者が後を絶ちません。これは、社会の方が生きづらいという異常事態を示しています。
著者は、日本の貧困はマザー・テレサの言う「愛の飢え」だと指摘します。物理的な支援だけでなく、孤立した人々の心に寄り添い、繋がりを取り戻すこと。それが、この国の貧困問題を解決する本当の鍵なのかもしれません。